C.R.ジェンキンスの「
告白」読了。表紙の著者の写真は、彼自身の歩んできた歴史を刻んだ皺に覆われてはいるが、その眼差しは深く慈愛に満ちたものだ。北朝鮮に暮らした当時の写真とは、うってかわったその表情こそが、「
告白」そのものを象徴しているように感じられる。
北朝鮮の国内事情については細かな点で知らないことも多く、西洋人の目から見た生活事情が描かれている点でも、本書の資料的価値は高い。しかし、そんなことよりも、ジェンキンスさん自身の後悔、脱走によって迷惑をかけた関係者への謝罪、北朝鮮組織内への憎しみ、唯一友情を感じた人々、そして現在の家族への慈愛。本書を読みながら、ひとりの人間が活きていく中でここまで心を傷つけられ、ある時は救われる、そんな経験があるのだろうか。彼の半生を本書を読み進めるうちに、自分自身がトレースしていて、ある時は涙し、喜びながら読んでいった。
なにより彼の文体(日本語訳が素晴らしい)が、素直であり、読み手の心を惹きつけてやまない。おそらく、それは彼自身が頭も良く、素直な人間であるからに違いない。その資質は北朝鮮での生活で養われ、日本に帰国してから開花したのではないだろうか。そうだとするならば、皮肉なことだ。
妻のひとみさんも、テレビでかいま見るだけであるが、素直で明るく、詩的で優しい女性だと感じている。本書では二人の出会いのシーンも書かれているが、とても純粋で素晴らしい。
この本を読んで、ますますジェンキンス氏を応援する気持ちになった。といっても物理的には何も出来ないが、ジェンキンス氏、そしてその家族達の幸福を祈るだけだ。