長女が4歳ぐらいのころだったと思う。私は最新型のインクジェット・プリンターを購入し、即座にセットアップを始めた。さっそくMacintoshから、子どもの写真などを印刷し、できばえに感心していたところ、長女がじーーっと、プリンタを見ている。
「おもしろい?」
「うん、ぎーこ、ぎーこっていってる」
ほー、音が面白いのか、と思っていると、
「なかで、うごいている。」
と指をさす。その先には、シートフィーダーが。確かに印刷するときに、ジーッという音をたてて、紙を吸い込み、ぎーこ、といって紙を繰り出して、シャーと音を立てて印刷している。そのシートフィーダーが気に入ったのか、食い入るように長女は見つめていた。
「ここにね、紙を入れて、マックから印刷するんだよ」
「ふーん。入れると、ぎーこって動くの」
「そう、そう」
こんな、会話をしたと思うのだが、この会話がとんでもないことになるとは、このときには気がつかなかった。私は、買ったばかりのプリンタの印刷の出来に満足して、舞い上がっていたのだ。
翌日、再び印刷をしようとしたところ、プリンタはうんともすんともいわない。いや、ジジーとモーターの稼働音はするが、紙を吸い込み、印刷を開始しない。昨日買ってきたばかりのプリンタに不具合が...と頭の中が真っ白になった。
しばらく、考え込み、様々な点をチェック。プリンタケーブルの交換、インクの取り外し、取り付けなど、セットアップを再度行うなど、出来うる限りのことをしたのだが、現象は変わらない。こうなると、初期不良を疑い、さっそく購入店へ持って行った。そして、現象を告げたところ、
「初期不良のようですね。すぐに確認しますので、しばらくお待ちください」
と言われて、待っていたところ数分間。
「お客様」
と呼ばれて、受付に向かうと、担当者のお兄さんが、ニコニコしている。
「これが、中に入っていて詰まっていたようです。」
それは、消しゴムだった。しかも、新品の消しゴムのカバーがとってあり、真っ白の消しゴム。
「ええ、なんでそんなものが入っていたんですか?」
と、受付のお兄さんが答えられないような質問をしてしまった。
「それは、わかりませんけれど、なにかのはずみで入ってしまったのでしょうかね。でも、しっかり奥にはさまっていましたよ」
結局、初期不良ではなく、修理したわけでもないので、料金も入らないということで、持ち帰ることになった。背中に店員の冷笑を感じながら。
家に帰って、妻に話をすると、「私は入れていない」と一言で一蹴。そんなことはわかっているよと、つぎに、長女に
「けしごむはいっていたよー」
というと、なんと
「いれたよ〜」
とのたまうではないか。
(おまえか〜!)の怒号は飲み込んで、理由を聞きたかったが、原因不明のプリンタトラブルをたったひとつの消しゴムが起こし、それを見つけられなかったというショックに加えて、それを娘が行っていたという事実に、絶句してしまった。撃沈されてしまった。
いまだに、なぜ消しゴムを、それも紙のケースを外して入れたのか、わからない。もしかすると、消しゴムに何かを印刷して欲しかったのか、たんに、シートフィーダーの動きを止めたかったのか、それとも父親をいじめたかったのか。
子どもが、じーっと見つめているときは、その後に、何かが起こるのだ。それは原因不明のトラブルから始まる。