JTのたばこ値上げは、愛煙家にとっては、懐に痛いことであろう。その値上げの趣旨がどうも、ぴんとこないので検証してみたい。
JTがたばこ値上げを申請、マイルドセブンなど30円値上げ
[東京 11日 ロイター] 日本たばこ産業(JT)<2914>は11日、たばこ税が7月1日から増税されるのに伴い、たばこ116銘柄の価格改定を財務省に申請した。
マイルドセブンシリーズの一部を含む13銘柄については、1箱あたり増税額の約20円を上回る30円の値上げとした。このほか、キャスターシリーズなど96銘柄については増税分の値上げにとどめた。
財務相の認可を受けたあと、7月1日に実施する。
この記事を読む限りにおいては、売れ筋のマイルドセブンシリーズ13銘柄について増税分以外のJT独自値上げが含まれている。さて、JTの発表はというと以下の通り。
たばこ税増税に伴うたばこの小売定価改定の認可申請について
JT(本社:東京、社長:本田 勝彦)は、本年7月1日にたばこ税が増税されることに伴い、本日、たばこの小売定価改定の認可申請を財務大臣に対し行いました。
当社では、成年人口減少・高齢化の影響に加え、度重なる増税により販売数量が減少する中、今後とも、愛煙家の皆様に満足いただける品質の維持向上と喫煙場所の確保等に向けた各種施策を一層進めることとしております。
また、たばこ業界では、未成年者喫煙防止を目的とした成人識別自動販売機の全国導入を2008年に予定しておりますが、これは、自動販売機の存続により、愛煙家の皆様にとっても購買利便の確保に繋がるものと確信しております。
こうした取組みの推進には相当のコスト上昇が見込まれますことから、全銘柄について増税分を価格転嫁させていただくとともに、マイルドセブン・ファミリーのうち11銘柄など合計13銘柄については、増税分以上の価格改定を申請させて頂くことといたしました。
マイルドセブンは、日本国内外のお客様にご愛顧いただいている当社最大のブランドであり、1977年の発売以降、永らく価格水準の維持に努めてまいりましたが、品質の維持向上の点から今回増税分以上の値上げをお願いするものです。
小売定価改定の申請を行ったのは、紙巻たばこ115銘柄、刻みたばこ1銘柄、当社取り扱いの計116銘柄となります。
小売定価改定は、財務大臣の認可を受けた後、本年7月1日より行う予定です。
当社と致しましては、今まで以上のサービス向上とともに、お客様に愛される製品の提供に努めてまいります。
【紙巻きたばこ】
※ 1本あたり1円値上げの銘柄:96銘柄
※ 上記以外の銘柄:19銘柄
(内訳)
・ 1本1.5円(1箱あたり30円)値上げ銘柄:13銘柄
(1) 現行270円→改定300円:12銘柄
マイルドセブン・ファミリーの内、11銘柄
チェリー
(2) 現行320円→改定350円:1銘柄
キャビン・プレステージ
・ 1本あたり0.5円値上げの銘柄:6銘柄
わかば、エコー、しんせい、ゴールデンバット、ウルマ、バイオレット
これによると、JT独自値上げ分は、新しい自動販売機開発費用に充てられるということであるが、独自値上げ分がどの程度の金額になるのかおおまかに検証してみよう。
まず、JT発表による国内たばこの売上本数だが、
2002年度 2,289億本
2003年度 2,182億本 (前年比 -107億本)
2004年度 2,132億本 (前年比 -51億本)
のように毎年売上本数は減少している。2005年度が前年比-79億本(平均)とすると、2,052億本となり、さらに2006年度は1,973億本程度になると予想してみる。
さて、JTでは1,000本単位での、2004年度の売上額(=定価-小売店マージン-消費税-たばこ税分)を公表しているが、これは3,940円である。したがって、2004年度の純売上額は、本数を掛けて、8,396億円となる。
逆に、3,940円/1,000本なので、1本あたりの売上額は3.94円だから、今回のJT独自値上げ分がたかだか0.3円/本のアップだとすると、それに2006年度の売上本数予想を掛け合わせると、
0.3円/本 × 1,973億本 = 592億円
となり、これがJT独自値上げ分による売上額アップ分に相当する。
2005年と2006年の第3四半期決算を1年分に換算して比較してみると、以下のような感じだ。
2005年 2006年 差額
売上高 11,988億円 11,835億円 △614億円
営業利益 3,072億円 3,358億円 287億円
この数字は、超概算なので、信頼性は低いが、今回のJT独自値上げ分は、国内たばこの売上高を2005年レベルに戻し営業利益、800億円台を確保するといった動きに見えてしまう。
実際に、新規自動販売機の開発にどの程度の投資を行うのか、明らかにされていない今、たばこの値上げが、便乗値上げとみられてもしかたがないだろう。
JTは今後、新規自動販売機のビジョンを早々に提示していかなければ、愛煙家だけでなく投資家達から支持が得られなくなってしまう。